fuchi's diary

都内在住のゲイの感じたこと、考えたこと

心の消化過程

引っ越しに備えて、再読したい本ともう読まないだろうから処分する本の整理を始めた。僕は同じ本を繰り返し読むのが好きで、もう一度読む価値があると思えばずっとその本を手元に残しているのだけど、ジェームズ・W・ヤングの『アイデアのつくり方』もそういう本の一つだ。

 

アイデアのつくり方

アイデアのつくり方

 

 

今はアイデアの発想方法に関する本は色々と出版されているけれど、この本の日本語訳が出版されたのは1988年と30年近く前で、このジャンルの中では古典的地位を占めているように思う。本文は60ページとかなり短いのだけど、アメリカの広告マンがシカゴ大学の学生向けに講義した内容等をまとめたもので、文章はすごく読みやすい。

タイトルに書いた「心の消化過程」は、アイデアを作る方法論の第2段階として出てくる。アイデアのつくり方の第1段階は必要な資料を収集することであるとした上で、必要な資料集めを終えたらすぐにアイデアが生まれるわけでなく、必要な資料を自分の中で消化吸収する期間を経て、その後に初めてアイデアが生まれるということを説いている。

パッとアイデアが思いつくこともあるけれど、資料を読み込むうちに、心の中がごちゃごちゃになって、はっきりとした答えが見えず途方に暮れる時が来るという。そして、そういう状態に至ったら、いったん問題を完全に放棄して、なんでも良いから自分の想像力や感情を刺激するものに心を移すことが解決のきっかけになるという。

 

これは、色々な分野に応用が可能な考え方だなと思う。人が新しいもの(それは未知の分野を学ぶことだったり、新しい人間関係を築くことだったり色々あるだろう)に取り組むとき、最初は何もかもが新しく感じられて、前に進んでいる感覚が得られやすい。ところが、その感覚は長続きしない。最初の新鮮な段階を通り過ぎてみると、その分野で自分がすべきことの多さや難しさに目が眩むような思いがして、停滞期に入ったと感じるときがくる。

そういうとき、停滞期に入ったことを苦しく感じることもあるけれど、それが自分なりに行動した結果たどり着いた停滞期だったら、「心の消化過程」というブレークスルーの直前にたどり着いたと見る事もできる。

 

これは僕にも経験のあることで、とある学問を短期間で習得することを目指していたとき、最初は新しい知識を知ることが面白くて仕方がなかったのだけど、ある程度勉強が進むと上達が感じられず、停滞期に入ったなと思うようになった。だけどそれは必要な期間と割り切って、あえて数ヶ月の間、全く別のことに意識を集中させてから戻ってきてみると、(数ヶ月の間まったくその分野に触れていなかったのに)その学問で使われる専門用語や思考方法が自分の身体に染み込んだような感覚が得られて、停滞期を脱していたという経験がある。 僕の経験則としては、資格の勉強とかだと、停滞期も含めて半年くらい経つと、自分の身体にしっくりくることが多い。

ただ、家族関係の問題のように根が深いものは消化するのに数年単位の時間がかかると思う。僕が抱えていた家族関係の悩みだと、10年以上かかって、やっと折り合いをつけることができるようになったものもある。「心の消化過程」にどれくらいの期間が必要かは問題の大きさに比例するだろうから、自分にとって重要な問題であればあるほど、あまり焦らない方が良いのだろう。

最近、何事も急かされることが多いというか、「心の消化過程」をもつ余裕がないと感じることが多いのだけれど、意識的に「心の消化過程」を持った方が、消化不良を起こさず、自分が納得できる解決に至るのも早いのかなと思う。